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駅の南側にはたこ焼き屋がある。甘辛いソースの匂いをくぐり抜け、行きつけのDVDのレンタルショップを通り過ぎ、横断歩道を渡る。
神社の横を少し歩いた先で、ばったり詩織(しおり)に遭遇した。スーパーの袋をふたつ提げている。
詩織は俺を見ると、いつものように目を細めて屈託なく笑った。
「おかえり」
「……ただいま」
俺は痛んだ詩織の黒髪から目を逸らし、先にマンションのエントランスをくぐった。慌てて詩織がついてくるのが分かる。
203号室が俺たちの自宅。正確には、詩織が借りている部屋。
俺は詩織のためにドアを開けて待ってやらなかった。今日はそんな気分じゃないから。
詩織が入ってくるのを見ないまま、さっさと寝室に向かう。
ベッドに座ったとたん、デニムのポケットの中で携帯が振動した。右手で携帯を取り出し確認してみると、ミルクからの電話だった。
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