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俺はギターケースから目を逸らし、寝室から出た。
「あ、コウちゃん……」
「夕飯要らない」
詩織が何かを言う前にさっさと靴を履き、外に出る。
マンションのエントランスから出たとき、ふと白っぽい空を見上げた。
晴れなのかくもりなのかも分からない。
ただ、寒い。
黒い手袋の中の左手が、痛い。
半年前のことを思い出しそうになって、俺は首を横に振った。
F駅につながる通りに出て、南に歩けばすぐにバイパスとぶつかる。長い横断歩道を渡り、片側4車線のバイパス沿いをしばらく西に歩いていくと、ミルクが指定してきたホテルがある。
ミルクと会うときはたいてい繁華街の中にあるホテルを使う。バイパス沿いまでミルクが出て来ることは稀(まれ)だ。
今までに2回、いや3回か? これから行くホテルを使ったことがあるのは。
おとなしく従順な詩織と正反対、気分屋で自己中心的な性格のミルク。
いったいどういう風の吹き回しか。
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