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老人は、馬鹿にするなとでも言いたげに鼻で笑った。不思議と嫌味は感じない。
「もう何十年も廓通いを続けておるでの。
それくらいの匂いは嗅ぎわけるわい。
お前さんはすこーし分かりにくかったがのう」
都季は、自分の体にすんすんと鼻を寄せ、首を傾げている。
いつもは超然な医者が、「ふ」と小さく笑った。
「お前さん、男が嫌いじゃろ」
「さあ……」
都季は、なんと返答してよいのか分からなかった。
彩志を慕う気持ちに変わりはない。しかし、彩志にも男としての一面があるのだと思うと、捉えどころのない何かが胸の奥に引っかかっている気にもなる。
「ん、好いた男がおるか」
「それもよく分からないんです。
好きだったけど……、今の私はその人と出会っても、前と同じ気持ちでいられるのか……」
医者は静かに茶を喫している。
老人は「ふむ」と鼻を鳴らすと、顎髭を撫でた。
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