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「但し、今はそうじゃが後は分からん。
女は環境で変わるからの」
老人は、残っていた茶を一気にすすった。
盆に置かれた茶杯は空である。
「御老。薬を服す茶が無くなってしまったようですが」
医者が静かに言った。
老人は、端から薬を服用するつもりなど無かったのだ。それを知りつつ言った医者の声には、微かなわざとらしさがあった。
「おや。話が長引いて茶を全部飲んでしまったわい。薬を飲むのを忘れておった」
老人は、ほっほっほっと声をあげて笑った。そして、その上機嫌な声のまま「さて、帰るとするかの」と、畳に掌をつけた。
「え……、娼妓を買いに来たんじゃないんですか?」
都季は、早口で言った。
老人が自分を買うと言っていた話は、忘れた振りをした。
老人は、どっこいしょ、と腰をあげている。
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