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「何を言うとるんじゃ。儂はお前さんを買うと言うたじゃろ。
これは、お前さんの金じゃ」
懐から出てきたのは金子である。
老人はそれを都季の手にのせた。
「でも、私は何もしてないのに……」
初めて触れた金子は、思っていたより重かった。金の冷たさが掌に伝わってくる。
「取っときんさい。
儂はお前さんが育つところを見たいんでの。
いつかお前さんが上級女になった時、お前さんに嫌われんよう今から唾をつけておくんじゃ」
「でも、私は娼妓になるつもりなんて……」
「今は、ないかもしれんが、先はどうなるか分からんじゃろ。
遠慮しなさんな。駄賃じゃと思うとりゃええ」
老人の声が、都季の言葉を遮った。
都季は「でも……」と、しつこく口を開こうとしたが、老人は聞こえぬ素振りで背を向けた。
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