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こんな大金を貰うのは気が咎める。しかし、老人は一向に食い下がらない。
しからば貰っておくしかない、と思った途端、心に余裕がうまれた気がした。
堕胎薬を買う金が出来たのだ。
「良かったですね。都季」
医者が穏やかな口調で微笑んだ。
本当に良かった、と都季は思った。心底から、歓喜の情が湧いてきた。しかし、つい今まで遠慮していた手前、そんな顔は見せられない。
頬が緩みそうになるのを堪えつつ、「はい」と答えた時だった。
医者が、都季の手から金子を取った。
「治療費の半分にもなりませんが、これはいただいておきますね」
「は……」
都季は、目を丸くした。
医者は柔らかい笑みを浮かべている。
「半分って、何か間違ってませんか」
治療費のことをすっかり忘れていたのだが、それは口には出さなかった。ずうずうしい娘だと思われたくなかったからである。
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