第5話

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こんな大金を貰うのは気が咎める。しかし、老人は一向に食い下がらない。 しからば貰っておくしかない、と思った途端、心に余裕がうまれた気がした。 堕胎薬を買う金が出来たのだ。 「良かったですね。都季」 医者が穏やかな口調で微笑んだ。 本当に良かった、と都季は思った。心底から、歓喜の情が湧いてきた。しかし、つい今まで遠慮していた手前、そんな顔は見せられない。 頬が緩みそうになるのを堪えつつ、「はい」と答えた時だった。 医者が、都季の手から金子を取った。 「治療費の半分にもなりませんが、これはいただいておきますね」 「は……」 都季は、目を丸くした。 医者は柔らかい笑みを浮かべている。 「半分って、何か間違ってませんか」 治療費のことをすっかり忘れていたのだが、それは口には出さなかった。ずうずうしい娘だと思われたくなかったからである。
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