187人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
しかし、その声には金を返せと言わんばかりの必死さがあった。
「間違えていませんよ。私の治療費は高いんです」
「高いって、高過ぎるじゃないですか」
「ええ。そうですね」
上がり框に腰を降ろした老人は、二人のやり取りを見て口角をあげた。
都季の心は、表情で読めるのだ。
喜びを隠しきれぬ顔や、動揺している顔は、見ていると面白い。
えらく気に入っとるな――。
老人は、医者を見て思った。
医者の取り扱いは、はなはだ厄介である。
過去の傷がそうさせるのか、女子を蔑視する顔を垣間見せるときがある。
ここに来る前もそうであった。
座敷では、娼妓らが砕けた口調で医者をもてなしていたが、医者はどこかつまらなそうであった。
不機嫌な顔をしていたわけではない。何かを問われれば自然な笑顔で応じていた。
しかし、口元は笑っていても目が笑っていないのである。
最初のコメントを投稿しよう!