第5話

7/38

187人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
しかし、その声には金を返せと言わんばかりの必死さがあった。 「間違えていませんよ。私の治療費は高いんです」 「高いって、高過ぎるじゃないですか」 「ええ。そうですね」 上がり框に腰を降ろした老人は、二人のやり取りを見て口角をあげた。 都季の心は、表情で読めるのだ。 喜びを隠しきれぬ顔や、動揺している顔は、見ていると面白い。 えらく気に入っとるな――。 老人は、医者を見て思った。 医者の取り扱いは、はなはだ厄介である。 過去の傷がそうさせるのか、女子を蔑視する顔を垣間見せるときがある。 ここに来る前もそうであった。 座敷では、娼妓らが砕けた口調で医者をもてなしていたが、医者はどこかつまらなそうであった。 不機嫌な顔をしていたわけではない。何かを問われれば自然な笑顔で応じていた。 しかし、口元は笑っていても目が笑っていないのである。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

187人が本棚に入れています
本棚に追加