第5話

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「おい、去(い)ぬるぞい。手を貸してくれ」 老人が声をあげると、医者は老人の背中に手を回して老人を立たせた。 立ってしまえば、さしたる手助けも必要ないのだが、起立する瞬間だけは、どうにも己の足を信用出来ぬのだ。 「あの、折角いただいたお金が……」 都季は、腹の前で組んだ指をしきりと動かしている。みなまで言わなかったが、ちらちらと医者を見上げる仕草で、何を求めているのかが分かった。 老人の口から、金を返してやれ、という言葉が出るのを待っているのだ。 「ふむ。お前さんにやった金じゃ。お前さんがどう遣おうと儂はかまわんよ」 「そうですか……。それなら良かったです」 都季の顔は、良かったという顔ではない。落胆しているのが一目で分かる。 医者は、満足げな笑みを浮かべていた。 座敷で見せていたようなすげなさは微塵も感じられなかった。
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