Wind.01

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「彼女だって、暴力はダメだろ」 「はぁ!? だって、こいつ浮気したかもしれないんだぞ!?」 「浮気は犯罪じゃねーよ」 グッと男が唇を噛んだ。 俺は空いている左手でポケットからスマホを取り出す。 …正直、こいつの気持ちは分からないわけじゃない。 置き場のない、やり場のない気持ちの沈め方を知らないんだ。 「警察に電話する。 いやだったらこの場引け。 とりあえず今は、迷惑だ。 最悪、他の人が通報している可能性もある」 「……ちっ」 男は大きな舌打ちをすると、俺の腕を振り払った。 そのまま暫く睨み、俺を睨んだまま俺のヨコを通り過ぎ走り去った。 「……っ」 ドッと力が抜けた。 男だからって、別に平気で他の女を救えるわけじゃない。 それなりに緊張したりだってするわけで。 …あぁ、やべぇ疲れた。 「つーばき」 「…なに」 「名前呼んできてくれたんだ? ありがとーう」 にこにこと笑った顔の葉月が目の前で、背中で手を組みながら俺をのぞき込んでくる。 相変わらず、無防備であっけらかんとしている。 小悪魔みたいなその目を半ば呆れたような目で見たとき、葉月の顔が一瞬いたずらっぽく光った。 …あ、ヤベ。 そう思ったとき、急に細い腕が自分の首に伸びてきて、抵抗する間もなくもう唇が触れていた。
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