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ギューッと抱きしめてする、葉月のキスに一体何人の男が奈落の底に落ちたんだろう。
キスをされたとき、そんなことをぼんやり思った。
葉月にとっては、こんなもの中学生が手を繋ぐよりも容易いものだ。
なんの意味もなくて、正直今回のお礼ぐらいのつもりだろうな。
そう思っていたから、抵抗もさほどしなかったし、すぐ離れるであろう唇を呆れたような気持ちで待っていただけだった。
やはり、それは離れて楓のもとに戻らないとな、と思ったとき葉月の肩を通して向こう側に楓がいた。
―――傷ついた、顔で。
「……っ」
ドクンッと大きく心臓が波打った。
楓は思ったことが本当に顔に出る。
無駄な抵抗が空しいくらいに、自分の感情が顔に出ている。
だから、なぜ傷ついているのかも手に取るように分かった。
……俺と葉月がキスをしているのを見たからだ。
歪んだ表情も。
泣き崩れそうな顔も。
プライドの高い彼女が、こんなに弱くなるのも。
……楓は全部、俺のせい。
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