Wind.01

18/32
前へ
/534ページ
次へ
「なに? なんで泣いてるの?葉月」 聞く声に苛立ちが混ざった。 なんだよ。 なんなんだよ。 意味わからない。 泣かれることは、すごく嫌だしこの上なく卑怯だと思う。 女の最大の武器であるし、男の最大の弱みなのだから。 そして至極面倒だ。 「…嫌だから」 俺の質問から数秒間を置いて葉月が震え声で答えた。 「椿に、私以外の人好きになってほしくない。 っていうか、椿の一番が私以外なんて考えられない。 認められない!」 「一番?」 「そうよ! 椿の中ではずっと、何よりも私が優先だったじゃない! なんで、なんで今は私が楓ちゃんに負けてるの!?」 ブンッと顔を上げて、涙をポロポロ零しながら葉月が怒ってるのか泣いているのか分からない声で言う。 その顔を見て、何気なくため息が出た。 …そして、ため息が出た自分に驚いた。 あぁ、そうだ。 今、俺なんて言ったんだっけ。 あんなに悔しかった葉月の浮気性。 『大したことあるだろ!』 昔怒鳴った自分の声が頭をめぐる。 そうだ。 俺は今、その浮気性について言ったんだ。 『大したことないだろ』 って……。
/534ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1730人が本棚に入れています
本棚に追加