Wind.01

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葉月は、大きく見開いた目を少し伏せた後、眉間に皺を寄せた。 そのままグッと強く拳を握る。 「……なによ。 自分だけ忘れた、みたいな。 椿はずっと私が好きだったんだから」 「…うん」 「前は、認めたりしなかったんだから。 私のことしか考えられなくて。 そんな気持ち消せるわけない」 「消えてはいねーよ。 他の女と全く一緒って言ったら嘘だよ」 「……じゃあ、付き合ってよ」 あげた顔は真剣だった。 「私のこと好きなんでしょ。 付き合ってよ」 「…それは、ムリ」 「なんで?」 「葉月こそ、なんでだよ。 おまえは俺を好きでもなんでもないよ。 それこそ、葉月の見た目を褒めて寄ってくる男と何も変わっちゃいねーんだから。 今、おまえは俺が目の前から消えるのが嫌なだけ……」 「違うよ!! 好きなの!!」 驚いて一瞬、息が止まった。 俺の両腕を葉月が強く握って揺する。 目に涙が浮かんでいた。 「……好きなの」 コツン、と俺の肩におでこを当てて葉月が鼻をすすった。 「……っ好きなの!」 腕ごと、俺に抱きついてくる葉月。 抱き締め返すこともできなければ、拒否もできない体制。 葉月の不安が伝わり、そして今までの告白がいかに浅かったかを思い知る告白だった。
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