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――だけど、現在。
陽大はその話を俺に振ってきた。
「なんで迷うの?いいでしょ。
お前だって知ってたよな。
俺が楓を好きなことくらい」
「……おい」
なんだこれ。
カマをかけられてるのか。
それとも、本気で言っているのか。
――多分、後者。
後者だとわかっているけど、前者だと思いたいような気持ちにさせられた。
いつも俺にも、他人にも真正面から向き合うことのない陽大。
優しくて、優しいからこそ自分ではなく他人を優先する。
何にも執着しない陽大。
その陽大がこんな目をして、それも今日ここで言ってくるからこそ、それから目を逸らしたい衝動に駆られた。
「俺は、楓が好きだよ」
念を押すように陽大が繰り返す。
「でも、椿は好きじゃないんでしょ?」
いつもの優しい声。
でも、まるでそれに触発されるように背中に冷や汗が流れた。
「もう、椿が楓を振り回す道理はどこにもないだろ」
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