Wind.01

29/32
1728人が本棚に入れています
本棚に追加
/534ページ
――だけど、現在。 陽大はその話を俺に振ってきた。 「なんで迷うの?いいでしょ。 お前だって知ってたよな。 俺が楓を好きなことくらい」 「……おい」 なんだこれ。 カマをかけられてるのか。 それとも、本気で言っているのか。 ――多分、後者。 後者だとわかっているけど、前者だと思いたいような気持ちにさせられた。 いつも俺にも、他人にも真正面から向き合うことのない陽大。 優しくて、優しいからこそ自分ではなく他人を優先する。 何にも執着しない陽大。 その陽大がこんな目をして、それも今日ここで言ってくるからこそ、それから目を逸らしたい衝動に駆られた。 「俺は、楓が好きだよ」 念を押すように陽大が繰り返す。 「でも、椿は好きじゃないんでしょ?」 いつもの優しい声。 でも、まるでそれに触発されるように背中に冷や汗が流れた。 「もう、椿が楓を振り回す道理はどこにもないだろ」
/534ページ

最初のコメントを投稿しよう!