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「そっか。
分かんないんだ、椿には」
呆れた風にハッと陽大が笑う。
そして、首を傾げると俺を見ながらゆっくりと、言い聞かせるように言った。
「俺はー、怒ってるのー」
「わかるよ。
そのぐらい」
「わかってねぇよ!」
陽大がバンッとローテーブルを強くたたいた。
その勢いで、置いてあったコーヒーカップがガシャンと音を立てて一瞬宙を飛ぶ。
「なんでわざわざ、お前に楓を譲ったと思ってるんだよ。
楓に告白する勇気がないからだとでも、思ってる?
だったら、今日、俺告白してきたよ。
最悪に不毛な状況で、めちゃくちゃ不利な賭けしたよ」
陽大はソファの背もたれに上半身全体を預けた。
ソファのスプリングがギシッと音をたてる。
「俺は。
……俺は、ずっと葉月に振り回されてる椿を見るのがイヤだった。
葉月に玩具みたいに扱われて、でもそれでも椿は葉月が好きで、それで苦しんでるお前が可哀想だった。
葉月を、忘れてほしかった。
楓だったら椿の心を埋めてあげられる自信があった。
だから、俺はあきらめたんだよ」
俺に向けられた目は怒っている、というより寂しそうだった。
失望されているような、そんな気持ちにさせられる目だった。
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