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「椿も少しずつ楓に心を開いていって、それを見るたびに、これで良いんだって何度も何度も言い聞かせてきた。
でも、全然良くなかったよ。
椿は、葉月と同じ道を辿った」
「…同じ?」
「愛されるのが、嬉しくて気持ちよくなっちゃったんだよ。
そうだろ?」
見透かされて、そしてあざ笑うような顔でそれを言われて、じりじりと迫られているような気がした。
違う?と笑いかけられているのに、威圧を感じる。
「椿は知ってるはずだよ?
追いかける苦しみも、振り回される痛みも。
でも、椿はそれがどれだけ深い愛情なのかも知ってる。
だからもっと欲しくなった」
「……」
「でも、楓はお前の所有物じゃないんだよ!!
気持ちがあって、お前が好きで、そのたび傷ついてるんだ!」
それだけ言い放つと、陽大はソファから立ち上がった。
ソファの背もたれに手をかけて、出入り口を目指す。
その姿で我に返ったように、
「どこ、行くんだよ」
と反射的に聞いた。
「寝る。
話はこれで終わり」
陽大はそれだけ言い放って、こちらを振り返ることもしないまま歩き出した。
扉のドアノブに手をかけ、ふと立ち止まる。
そしてそのドアノブに睨んだまま、言った。
「…椿が変わったように、楓も変わるんだからな。
せいぜい後悔すればいいよ」
ドアがすぐに開き、バタンと閉まる。
俺は陽大が行った後も、そのドアから目を離すことができなかった。
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