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声が聞こえないくらい遠くにいるのに、陽大のまとう空気が柔らかくなったのを感じた。
いつだって、陽大は優しいようで厳しい。
冷静だからこそ持っている近寄りがたい空気が楓を前にした瞬間にふにゃりと曲がるように崩れる。
それがいいのか、悪いのか。
むしろ、他の人がなぜ気付かないのか不思議だと思うくらい陽大は楓の前だと変わった。
身振り手振りを入れて必死で話す楓。
それを愛おしそうに見る陽大。
…なぜだか、無性に楓をあの場から連れ出していきたくなった。
無駄だよ、陽大。
そいつ、俺のこと好きなんだから。
あきらめろよ、無理だよ。
そんな言葉を浴びせたくなった。
…だって、陽大、無理なんだ。
そいつは俺にゾッコンなんだから。
……だから、頼むから、あきらめてくれ。
楓の頬が遠くから見ていてもわかるくらい赤く染まる。
それを見て、俺は反射的に目をそらした。
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