Wind.02

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走り出す瞬間、隣から風が作られた気配を感じた。 決してスタートを遅れた様には思えなかったのに、もう斜前に陽大がいる。 華奢な背中にいったいどんなパワーがあるんだと思うのに、――持っている。 あの見慣れた背中は冷たいようで、いつだって優しく、強い。 葉月が追いかけ、俺はその葉月の背中を追いかけていた。 振り向いてくれるようで、振り向いてくれない。 優しいから、手加減はしない。 俺を信じているから、本気で走る。 走ろうとする俺を抵抗するみたいに強い風に押されて、目が痛かった。 ちょうど南向き、太陽がピッタリ上から差している。 今回の無意味な願掛けも、まるで俺を優先させるみたいなルールだった。 相変わらず、あまい。 その出来た男を俺はすごく好きで、その男を葉月は好きで、でも俺はこんなに時間を経ても、これだけ努力してもこの男にはかなわない。 優しさが、かなわない。 おまえ以上の人間なんて見たことないよ。 だけど、楓は俺を見てくれるんだ。
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