1730人が本棚に入れています
本棚に追加
走り出す瞬間、隣から風が作られた気配を感じた。
決してスタートを遅れた様には思えなかったのに、もう斜前に陽大がいる。
華奢な背中にいったいどんなパワーがあるんだと思うのに、――持っている。
あの見慣れた背中は冷たいようで、いつだって優しく、強い。
葉月が追いかけ、俺はその葉月の背中を追いかけていた。
振り向いてくれるようで、振り向いてくれない。
優しいから、手加減はしない。
俺を信じているから、本気で走る。
走ろうとする俺を抵抗するみたいに強い風に押されて、目が痛かった。
ちょうど南向き、太陽がピッタリ上から差している。
今回の無意味な願掛けも、まるで俺を優先させるみたいなルールだった。
相変わらず、あまい。
その出来た男を俺はすごく好きで、その男を葉月は好きで、でも俺はこんなに時間を経ても、これだけ努力してもこの男にはかなわない。
優しさが、かなわない。
おまえ以上の人間なんて見たことないよ。
だけど、楓は俺を見てくれるんだ。
最初のコメントを投稿しよう!