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「あーっ、やっぱり俺が勝ったか。
奇跡はなかなか起きないね」
「…っ、そんな簡単に起きたら奇跡じゃねぇんだけど」
「でも、椿自己ベスト出たんでしょ?
おめでと」
陽大が片手をあげて俺にハイタッチを求める。
額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
「どーも」
そこに音が鳴らない程度に軽く手を合わせると、手も汗ばんでいるのが分かった。
陽大が笑う。
「賭けしたのに、必死で走ったの?
優しいね、椿」
「どっちが、だよ」
「俺が必死で走ったかどうかなんてわからないでしょ。
俺、速いんだから」
「…陽大は必死で走るよ」
まだ息が完全に整っていないせいで息が切れている。
はぁっと息を吐くと、陽大は目を大きく見開いた。
そして、困ったように眉を寄せる。
「おまえの中で俺の信頼度高くない?
ずるいよ、それ」
「卑怯?何が?」
陽大は汗ばんではいても、もう息は整ったようだ。
やっぱ運動神経だけは俺のが負けてるなと自覚する。
「だって、そんなこと言われて俺どうすりゃいいの。
椿のこと益々好きになるしかないじゃん」
「好きになりゃいいじゃん」
「…あのね」
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