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陽大はあきれたような目で俺を見た後、脱力するようにふっと笑った。
「お前は知らないんだな。
これでも結構、お前が羨ましくてムカつくよ。
そのうちお前も分かればいいのに」
ピン、と俺のおでこをはじいて陽大が俺に背を向ける。
そして独り言のようにつぶやいた。
「…あぁ、でもムリかぁ。
俺賭けに負けたんだった」
放課後の図書室はひどく涼しかった。
夏には快適な温度で、頭を使うと熱が上がる分ちょうど良い。
クルリ、とペンを一周回して数学の問題にとりかかる。
数学は難しければ難しいほど面白い。
計算とか単純な作業なんて、なんて面白みがないんだって思うけれど、この思考の過程がひどく好きで、俺は数学が好きなんだ。
無音なその空間には時折開く扉の音と、上履きが図書室の床を蹴る音、本の貸し借りをしている小さな声だけ。
ひたすら没頭していると、背中に声がかかった。
「柳瀬」
かすかな、でも聞きなれた声だった。
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