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「…うぅん、昨日のことじゃない。
昨日のことはもういいよ」
楓がやんわりと首を振る。
睨むような視線が来るかと身構えていた俺にとっては予想外のことだった。
「…は?いいの?」
俺が他の女とキスしてても?
語尾につくその言葉は出ない。
「いいよ。
私にはもう関係ないから」
冷めた声。
見えないけど、鉄壁の壁を作られたような気がした。
すぅっと冷気が心の隙間に入るみたいに冷やされる。
そして何かを思い出す。
楓の、この目。この、態度。
ひどく何かを彷彿とさせる。
「関係…あるだろ」
「ないよ。
私、もう柳瀬を好きじゃない」
「はっ!?」
まっすぐな楓の目は一瞬の迷いもなかった。
自分の中でつっかえていたものを思い出す。
…昨日の、俺だ。
昨日、あの時、葉月に冷めていた自分。
もう、葉月を好きじゃなくなった、自分。
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