Wind.02

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どうか、前者でありますように、と切に願う。 俺は深呼吸をしてから口を開いた。 「…あれは。 思いっきり名前で助け呼ばれたから行ったまでだろ。 っていうか人として当たり前だろ。普通に。 あんたは、誰かに助けを求められたらそれを無視するわけ?」 「柳瀬には、私の声も聞こえてなかったよ! 必死だったじゃない!」 「はぁ? そりゃ必死だろ、こっちだって」 「じゃあなんでキスする必要があるのよっ!」 泣きながら、怒る楓。 それを答えなきゃ、楓は戻ってこないかもしれない、という予感が頭を過った。 小さな沈黙が続く。 たぶん、楓は俺のことをまだ好きだ。 きっと、そうであると思う。 怒ってるだけじゃなくて、楓が泣いているから。 楓は嘘では泣けないから。 泣き落としも、そんな計算もできないくらいには素直だから。 ――だから。 「……それはいいたくない」 「は……、」 言いたくない。 楓、あんたは俺を誤解している。 だから、言いたくない。 俺を好きでいてほしいから。 俺にあこがれて、背中を追いかけていてほしいから。 だから言いたくない。 『あんたに俺のために泣いてほしいからだよ』 そんな言葉言えないくらい、俺はあんたにかっこつけてる男なんだよ。
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