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楓の目から色が消えていった。
視線が一度伏せられて、それがゆっくり戻ってくる。
前髪の隙間から、覗き見るように俺をみた楓は力なく口を開いた。
「…あんたの中では、葉月さんは大事?」
俺の中で渦巻く気持ちが揺れ動く。
でも、このまっすぐな子に嘘はつきたくない。
「……そりゃ、大事だろ」
「そうだよね。
柳瀬は…っ、いつまでも、いつまでも葉月さんが一番なんだ」
ボロボロと涙をこぼす楓。
弁解をするつもりなんかないくせに、反射的に楓の腕をつかんだ。
「楓…っ」
「もう、嫌だ!
私、もうあんたのこと追いかけたくない!
二番でいるのは、もう嫌なの!」
「聞けよ、俺の話をっ!」
「聞いたよ!
でも、あんたはどうやったって葉月さんより私を選ぶことはできないんでしょ!?
私は心が狭いから、それじゃ嫌なの!」
バシッと手が振り払われる。
そんなに強い力じゃないのに、ひどく痛かった。
涙がこぼれている目が精一杯俺を睨む。
「もう、私あんたのこと好きじゃない。
今、この時点で大っ嫌い!!」
何度となく言われてきた『嫌い』の言葉の意味を、俺は今日初めて理解した。
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