第5話 【忘年会】

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慰謝料を支払ったからって、私の誤ちが消える訳では無い。 探偵事務所を使って私の存在を突き止め、自らの手で慰謝料請求を突きつけた妻。 隠し撮りされた制服姿の写真を見た時の衝撃は、鉄のハンマーで頭を叩き割られたくらいの凄まじいものであった。 職場に密告の電話、ファクス、手紙、何かの手段で嫌がらせをされるのではないかと、誰かが妻と繋がっているのではないかと、同僚の顔色さえも窺い、疑い、怯えて暮らした日々。 三年経った今でも、思い出すと身震いがする。 そして、一度も言葉を交わす事も無く音信不通にされ、一方的に強制終了された私の惨めな恋。 あの時の苦しみを思い出すと吐き気がする。 どんなに甘い言葉を囁いたって、愛人は妻には勝てない。結局、最後に帰る場所は妻と子供の待つ家。 私は、簡単に捨てられる存在。退屈な結婚生活のスパイスにされただけ。 ――私は、彼に愛されてはいなかった。 三十路を目の前にして、恋することに怯える哀れな女――。 「安藤さんもこっち来たんだ~!」 正面から聞こえた声で、ハッとし強張らせた顔を上げる。 「私、すんごい飲んじゃいました~!」 向けた視線の先には、真っ赤な顔をした七瀬さんがグラスの氷を鳴らしながらケラケラと笑っている。
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