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しっ…しまった!
ここから出るタイミングを逃がしてしまったではないかっ!
高瀬先生どうこう言ってるし…非常に出にくいんですけど。
個室に閉じこもったまま、出るにも出られず息を潜める私。
「えっ?いい雰囲気だった?高瀬先生って、私服姿も素敵だよね~。あんな人が彼氏だったら、みんなに自慢できるのに」
藤森さんの一オクターブ上がった声色。
いやっ、藤森さん、それは絶対に有り得ないから!
あなたの性格くらい、先生知ってますよ!おめでたいにも程があるってば!
月とすっぽん。提灯に釣り鐘。駿河の富士と一里塚。はい、ムリムリ。
――あっ、私もだけどさ。
すっかり酔っぱらいと化した私は、便座の横で突っ立ちながら人知れずクククッと一人ウケする。
「それにしてもさ、事務員二人。誰?あの二人呼んだの。見ててウザイんだけど」
えっ?!…わたし?
藤森さんのその言葉が耳に入り、我に返ったようにビクッと首を縮める。
「たぶん、幹事の香川さんじゃないですかね。…何かあったんですか?」
「あの七瀬って子、いい気になってはしゃぎまくって…目障り!それに、自分の事を医療関係者って言ってるらしいよ。あんたは医療関係者じゃないっつーの!事務員なんだよ!ただの事務員!全く、図々しいっ!」
そう言った彼女が、フンっと大きく鼻を鳴らしたのが、扉越しにでも分かった。
ただの…事務員。
浴びせられた冷酷な言葉で、アルコールによって頭まで上っていた血液が、一気に足の先まで落ちていく感覚がした。
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