第5話 【忘年会】

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そっか――― 私、陰気くさいからストレス解消のための良いカモなんだ…。 扉にもたれ掛り、茫然自失の状態で天井を見上げる。 「私、先に行くわ。高瀬先生の隣を誰かが狙ってるといけないから~」 やがて、高瀬先生を口説き落とすためのメイクを終えたのであろう。藤森さんは声を弾ませ、後輩二人を残しレストルームを出て行った。 一瞬、シンと静まり返る冷たい空気。 「…ねえ、知ってる?高瀬先生の彼女の噂…」 藤森さんの足音が消えたのを確認してから、スタッフの一人が声を潜めた。 えっ?…高瀬先生の彼女の噂? 私は瞼を見開き、天井に置いていた視線を、もたれ掛っている扉側に向けた。 「ええ――っ!?高瀬先生って彼女いるの!?うちの病院に来てからはずっとフリーだって聞いてるけど!」 「うん、私もそう聞いたんだけど…一か月くらい前に4A病棟にいる同期の子が目撃したらしいの。高瀬先生が、名駅のバスターミナルで大きな荷物持って女性と歩いてるのを」 「バスターミナルで荷物持ってって…彼女と旅行?」 「そんな事、私が知る訳ないじゃん。それでね、その女性なんだけど、モデルみたいにスタイルが良くて、めちゃくちゃ美人だったらしいの!」 「へえ~、やっぱり!ちゃんと自分と釣り合いのとれる彼女がいるって訳ね。…って言うか、それ知ってて藤森さんに【いい雰囲気でしたよ~】なんて、見え透いたおべっかよく使えるね」
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