第5話 【忘年会】

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「だって、藤森さんに言える訳ないじゃん。あの人に知られたら色々面倒だし。好きなように盛り上がらせてあげてた方が、幸せじゃん?」 「はははっ!それもそうだね。じゃあさ、今から藤森さんと同伴して、藤森さんが空回りしてるとこ見物して楽しもうか~」 メイク道具を詰め込んでいるような音と、軽快に笑う二人の声。 「そうだね~見物見物っ。いこいこ。早くしないと置いて行かれちゃう」 扉が閉まる音と、遠ざかる笑い声。 「怖いな…女の世界って」 力の抜けた声で小さく呟き、苦笑いを浮かべる。 ゆっくりと鍵を開け、怯える様にあるはずのない人の気配を探る。 微かに耳に届くのは、見知らぬ人たちの笑い声。 私は、地に着いていないような感覚の足で、よたよたと洗面台に辿り着く。 台に両手をついて顔を上げた。向かい合っているのは、化粧も剥がれかけ生気の消え失せた女の面。 「あんた、陰気くさくて、そこに居るだけでウザイ存在なんだってさ。ただ、平穏な毎日を望んでいるだけなのにね。…どこまで行っても、惨めな女だね」 鏡に映る顔を見つめ、苦し紛れに口角を上げる。 ―――ただの事務員。 あなたたちに、そんな風に見られているのは分かっていても――実際に言われるとキツイ。 医事課の中にだって、日常茶飯事イジメはある。 でも、病棟勤務になって感じた事―― 対象が目上の者であろうと、常に「指導する立場」に置かれている、プライドの高いナースの世界のイジメは、特に陰険――。
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