第5話 【忘年会】

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私の姿が無かったから、気になって? それで、わざわざ探しに来てくれたって言うの?――どうして私なんかを… 胸の奥に、ズキッと切ない痛みが走った。 「あの…七瀬さんはどうしたんですか?二次会に行ったんでしょうか…」 どんな顔をしたら良いのか分からず、先生と重なり合う視線を衝動的に離した。 「七瀬さんは迎えが来て帰ったよ。かなり酔っててフラフラで…きっと記憶飛んでるな」 そうか、良かった。二次会で藤森さんに嫌がらせされてたらどうしようかと思ったけど… 「そうですか。無事に帰宅したなら良いんです」 胸を撫で下ろし、そっと白い息を吐いた。 「これからどうする?香川さんならカラオケにいるよ。まだ飲みたいならここから3分程歩いた店にみんな集まってる」 「このまま帰ります。私は大丈夫ですから、先生は二次会へ戻って下さい。…ご迷惑をおかけしました。では、失礼します!」 首から頭が抜け落ちるかと思うくらいの勢いで、大きく頭を振り下ろし会釈する。 そして、先生の顔に再び視線を向ける事も出来ず、その場から逃げる様に回れ右して歩き出した。 忘年会シーズンの金曜とあって、飲み屋街は行き交う人々で賑わいを見せている。 頭を大きく振ったせいなのか、レストルームの一件で一気に吹っ飛んだはずのアルコールが再度回りだし、直進しようとする足取りの邪魔をする。 急ぎ足で前進しながらも、右方向によろめく身体。 その拍子に「スーツ姿の男性にぶつかる!」っと思いきや、左側から腕を掴まれた私の身体は、男性との衝突を免れ違う何かに身を委ねていた。
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