第5話 【忘年会】

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「待てって言ってるだろ!一人でスタスタ行きやがって…ったく」 耳もとに落とされた、低い声。 えっ…この黒の革のジャケットって…まさかっ! 腕を強引に引かれ、私の身体が辿り着いたのは高瀬先生の腕の中。 「うわっ!!す、すみません!」 私はあまりの驚きに目を丸くし、後方にジャンプする勢いで身体を離した。 「帰るなら送ってく。家、茶屋ヶ坂だったな」 先生は呆れた口調で言うと、大きなため息をついた。 あれ…先生、怒ってる?…探しに来てくれたのに、一人で帰ろうとしたから? 今までの温かな雰囲気とは一転した、冷たい空気を帯びた先生。 顔も、…少し怖い。 「あの、またご迷惑をおかけしてしまって…本当にもう大丈夫です。直ぐそこ、地下鉄の入り口だから…」 ご機嫌を窺いながら、しおらしく言う。 「…あんたは、なぜ俺を拒絶するんだ」 街のざわめきに紛れて聞こえた、先生の重みのある声。 えっ?! 「あんた」は、なぜ「俺」を拒絶するんだ? きつい表情。刺々しい口調。 彼の真っ直ぐな視線が、私の身体に絡みつく。 まただ... この目...
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