第5話 【忘年会】

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「本当に迷惑?…嘘つき」 先生はそう言葉を加えると、ククッと得意げに喉を鳴らした。 嘘つき!? 本当に迷惑?って―――「自分が好意を抱かれてる」とでも、言いたいわけ!? なんて自信過剰な男っ! 私…やっぱりからかわれてるんだ。馬鹿にされてるんだっ! 私に向けた真っ直ぐな視線も、優しさも、… 「…面白いですか?涼しい顔して人を見下すの、そんなに楽しいですか?頭の良い人って、そうやって下々の人間をからかって遊ぶんですか?」 アルコールの作用が、込み上げる怒りの速度に拍車をかける。語気が荒くなり、血液が首から上に集中してくるのを覚えた。 「下々の人間?…なにそれ。それに、からかってるつもりはない。俺は、あんたに興味があるんだ」 先生は目を細め、フッと余裕の笑みを浮かべた。 ――興味がある? 人を、珍しい「モノ」みたいな言い方して… 「…わけわかんない。…もう、いいです。どうでも。私は帰ります。二次会に行きたくないなら、一人で飲みにでも行ったらどうです?では、さようならっ!」 私は怒りに任せてそう言い捨てると、目の前に見える地下鉄の入り口を目指して走り出した。 ――私、やっぱりどうかしてた。 まともな会話ができない、あんな宇宙人に一瞬でも胸をときめかせてたなんてっ! キライっ!キライっ!だから、医者なんて大っ嫌い!! 人の繊細な気持ちを学ぼうとしない、頭でっかちのエリートドクターめっ! ブーツの踵がアスファルトを踏みつけ、カツカツと大きな音を立てる。
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