第5話 【忘年会】

26/28
前へ
/28ページ
次へ
「やっ、やめてっ!」 彼の指先が私の頬に触れようとした瞬間、私はビクッと身体を強張らせた。 怯えた表情を見せ、思わず後退りした足がコツっと後ろの壁に当たった。 先生は、過剰反応を示す私の表情をしげしげと見つめ、肩透かしされ行き場を失った彼の手のひらは、気まずそうにゆっくりと引き下がる。 何なの?!気になって仕方ないって―― ずっと私を見てた? 屋上で子供たちと遊んでる姿を?―――いつから?どうして? どうして、私に触れようとしたの? 貼りつく様に壁に背中をつけたまま動けない。目を大きく見開いて、彼を凝視し続ける。 「…簡単にそういう事が言えちゃう人なんだ…最低。…彼女がいるのに」 錯乱に似た思いが押し寄せる中、震える唇が言葉を絞り出した。 「彼女?…」 眉間にしわを寄せ、先生は口角を歪める。 「私に構わないでって言ったでしょ?そう言う遊び相手が欲しいなら、私みたいなつまらない女じゃなくて、周りにたくさんいるでしょ?それとも、縁の無さそうな女を弄って遊ぶのが楽しい?」 「遊び相手?縁の無さそうな女?…」 「…その場限りとか、浮気とか、…私、そう言うの駄目なの。男女のぐちゃぐちゃした関係なんてうんざり…」 ――女同士の、男の取り合いも… 女世界の醜いいじめも、嫉妬も、みんなうんざり―― 「…自分を偽って生きて、何がいけないの?…私とあなたが似てる?その言葉、以前も私に言いましたね。でも、私とあなたの共通点なんて一つもありませんよ。だって、あなたは欲しいものを何でも手に入れられる人じゃないですか」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1587人が本棚に入れています
本棚に追加