第5話 【忘年会】

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相手に口を挟む間も与えず、私は皮肉に満ちた言葉を連ねた。 歩道から少し離れたこの場所には、賑わう街の灯りが僅かに差し込み、通りを歩く人々は私達に気づきもせずに通り過ぎて行く。 先生は更に眉間のしわを深め、ジッと私を見つめたまま口を閉ざしている。 二人の間に、真冬の冷たい風が流れ入る。 「俺は、何に満たされてる?」 静かに落とされた、先生の声。 はっ!? 何に満たされてる?って… 素っ頓狂な言葉に唖然とする。 「あなたには知識も実力も、地位も名誉もある。異性にだって人気があって…何よりお金に満たされてる」 「カネ…か。そんなもの、満たされたって人間が満たされるものじゃない」 先生は私の言葉を軽く返すと、フッと鼻先で笑った。 その彼の表情を見つめ、再び沸々と怒りがこみ上げてくる。 「…私達は生きる世界が違うのよ。だから、求めるものも違う」 投げ捨てる様にそう言って、私は口をつぐんだ。 「そう言えば、屋上でもこんな話したな。…あんたはどうして金が欲しい?ブランド品?――その答えは、嘘だ。あんたの口はいつも嘘をつく。…でも、目は嘘をつけない」 目は…嘘をつけない――。 グッと心臓を鷲掴みにされたような痛みが走り、咄嗟に彼から視線を外す。 「何が欲しい?そうやって目を逸らさずにいるためには、何を手に入れたら満たされる?」 ――やめてっ… …私の心を覗かないで…お願い… 彼の声が、呪文を唱える様に私の心に浸食して来る。
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