第5話 【忘年会】

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私が本当に欲しいモノ… それは――― 「…自由よ。私が欲しいモノは、自ら作り上げた呪縛から解放される、自由。そのために、お金が必要なのよ…」 「…どう言う意味だ?」 先生はきついほど私を見つめ、片眉を上げて問う。 不倫した男に捨てられただの、慰謝料請求だの、恋愛恐怖症だの、この人には全く縁のない話。 この陳腐な女が医者とどうこうなるって話と同じくらい、縁のない話。――私の閉ざされた世界は、あなたに理解できるはずもない。 「要するに、私にはお金が全てって事です!」 大きなため息をつく拍子に、投げやりな言葉を言い捨てた。 「金があれば、自由にも幸せにもなれると…」 「そうです。いけませんか?欲しいだけのお金が手に入るまで、恋愛も、人間関係も私にとっては煩わしいものでしかない。屋上でまったり日向ぼっこしてる時間が幸せ。家で一人で映画見てる時間が幸せ。私、先生が思ってるよりずっとつまらない女ですよ」 先生の言葉を遮るようにそう言って、にっこりと余裕の笑みを作りだした。 「…そうか。金が全て…それも一つの価値観。悪くない。だけど―――おまえ、女として終わってるな」 目の前に立つ男は、そう厳酷な言葉を浴びせククッと喉を鳴らした。 なっ!?女として、終わってる!? 女として「枯れてる」――その事は十二分に自覚している。 でも、なんでこいつにそんな事言われなきゃいけないの?! ムカつくっ!ムカつくっ! 「何なのあんたっ!失礼極まりないっ。普段は優等生ぶっちゃって…中身は最低っ!その甘いマスクと言葉で、何人の女をたぶらかしてんの?からかって遊びたいなら他でやってって言ったじゃない!人の人生にズカズカと土足で踏み入れないでよ!」 「からかってないって言っただろ。俺は、興味があるから近づきたくて…」 「だからっ!それが迷惑なの!…そんなに知りたいなら教えてあげる。それで、気が済むんでしょ?」 私は、諦めたように大きく深呼吸をする。そして、改めて彼を睨み直すと、 「――四年前、私は不倫をしていたのが奥さんにバレて、高額な不倫慰謝料請求をされた。だから、お金が必要なの。借金返済するために」 ――エリート君のあなたには、愚劣な話で理解しがたいでしょうけど。 心の中でそう言葉を吐き加え、居直ったように不敵な笑みを浮かべた。
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