第5話 【忘年会】

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上座で準教授や講師、その他の医者や師長が囲って気を使いお相手するのは、循環器内科のトップに立つ木澤主任教授。 病院内では絶対的権力を誇る教授だが、白衣を脱げばただのおじさん。 犬の散歩をしているそこらの近所のおじさんより、多少小奇麗なおじさん。 ――そんなとこだ。 宴会の場まで来てペコペコ頭を下げるのは、直接の部下である医者達だけ。 準教授が席を立った隙に、教授の隣を奪った小早川先生… 酒の場は、教授のご機嫌取りには絶好のチャンスだものね。院外営業も大変ね。そのアピールが酔いの冷めた教授の記憶に残っているかは保証はないけれど。 ――まあ、精々頑張って。 私は生ビールを口にしながら、一人でククッと喉を鳴らした。 そして、興味のない権力争いの場から視線を移す。 独身の若いナース達は、「おっちゃんの相手なんて御免だね」と言わんばかりに上座を避けて、肩書の無い若い「医師」かそれより一段階昇格した「助教」のお隣を陣取り、白衣を脱いだ普段とは違う女っぷりをアピールしている。 壁側に点々と並べられた、ヴィトンやグッチなどのブランドバッグ。 ヴィトン、ヴィトン、こっちもヴィトン。ナースってホント、ヴィトン好きだよな~。 ――新作が出れば我先にと購入連鎖が始まる。 あなたたち、その若さで給料いくら貰ってんの?そんな風に見栄と男漁りに無駄遣いしてると、いつか苦労するかも知んないよ!――私みたいに。 数年前に購入したミュウミュウのショルダーバッグをコートで隠し、グビグビとビールを喉に流し込んだ。
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