第5話 【忘年会】

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「そんな事より、安藤さんも七瀬さんの所に行こうよ。彼女、あの雰囲気に凄く溶け込んで楽しそうよ。安藤さんもいこいこっ」 ゲラゲラと大笑いをしながら盛り上がる、数人の若いドクターとナースの集団を指さして、香川さんが声を弾まして私を誘う。 「ええっ!?あの中にですか!?…いえ、私は最後までここで良いですから」 「最後までって、そんな淋しい事言わずに行こうよ~」 香川さんは立ち上がり、何が何でも連れて行こうと私の腕を捕まえ、悪戯気に引っ張る。 酩酊状態でドクターとナースが急接近して声を絡ませるその光景は、私の目には酒池肉林の世界。 酒池肉林は大層な表現だが、私にとってはそれくらいに近寄りがたい雰囲気なのだ。 「いや、無理です!あそこは、私などが踏み入れてはならない聖地ですから!」 何としても動くまいと、机の端を握る私。 「何訳の分かんない事言ってるの~?ほらほら、イケメンドクターもいるから一緒に楽しく飲もうよっ」 やっ、やめて――っ 引っ張らないで――っ!! 私、あの場所にはいけないんです! だって、だって、あの中には高瀬先生がいるんだもん!! 強引な誘いによって立ち膝状態になっている私は、チラリとその危険地帯に目をやる。
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