第5話 【忘年会】

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ここから5メートルほど離れた、七瀬さんが楽しくやってる領域のすぐ隣には、会の始まりからその席で慎ましくお酒を嗜む高瀬先生の姿がある。 私の席から丁度先生の顔が見える角度であるため、ふと顔を上げた拍子に視線が合ってしまう気がして…自分でも不自然なほどに、極力視線を向けずにいた。 ――それなのに、視界の隅に映り込むその人は、不思議な存在感で私の興味と視線を誘う。 屋上で先生に会って以来、私の心臓のポンプは誤作動するようになってしまった。 院内で顔を合わせると、顔が熱くなりまともに目が見られない。 声を聞くと、ドキッと胸が音を立てる。 これは恋?  ……まさか、ね。 ただ、出会った事の無い人生の勝ち組と、少しだけお近づきになれた事に舞い上がってるだけ。 どうやったって手の届かない雲の上の存在に、恋なんてするはずがない。 未熟な胸の鼓動に惑わされてたら、また奈落の底に突き落とされる。 「あの!香川さん、本当に賑やかなのが私苦手で…勘弁して下さい」 私は掴まれた手に力を入れ、縋る思いで目を細めた。 香川さんは私の顔を見つめ返す。 「そっか、じゃあ~、賑やかなとこには放り込まないからっ。静かな席あるから大丈夫。私の隣にいれば良いんだから」 上機嫌にそう言って、酔いの回った足で再び私を誘導し始めた。
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