第5話 【忘年会】

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「あと、カクテルも居酒屋の薄い味と違って、ここのは美味しいって言ってる。ビールはいつでも飲めるし、せっかくだから違うのどう?」 メニューを私の前に運び、顔を覗き込むようにして先生が問いかける。 うっ、なんだ?このフレンドリーな雰囲気は。 どうして今日はそんなに喋るの?いつもは無口で、言葉足らずな人なのに…。 酔ってるから? とにかくお願い!そんな風に、優しい目で笑いかけないでよーっ! ――心臓がまた、誤作動するじゃないの…。 先生の声を受け取る、左半分の顔が熱い。 「いいえ、私はビールだけで大丈夫です。チャンポンすると悪酔いしてしまうので。お気遣いありがとうございます!」 心臓の鼓動が先生に聞こえてしまうのではないかと思い、咄嗟にメニューを押し返してしまった。 「ああ、そうなんだ。それはごめん」 自分の手もとに帰って来たメニューを見つめ、先生が少し呆気にとられているような声を漏らした。 うわっ――!!私ったら、なんて失礼なことを!! 違うんです、違うんです先生! だって、あなたがそんなに甘く微笑むから。 「すみません…」 先生の横顔にチラリと視線を向け、熱った頬を隠すように再びうつむいた。
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