第1話

2/30
前へ
/270ページ
次へ
「父さーん。今日の夕飯、カレーでいいー?」  いいかどうかと聞いておきながら、既に玉ねぎにじゃがいも、人参とカレーの具材を切り始めている私。  もはや其処に、カレー以外の選択肢など許さない。  台所に立ちながら少し大きめの声で問う私に、父の「任せたー」という返事が返ってきた。  おし、と父の返答に野菜を切る手を早める。  すると、何かを引き摺るような音が聞こえてきた。  何事かと振り返ってみると、リビングと台所を仕切るのれんの向こうから、腰に手を当てた父が顔を覗かせていた。 「ちょっと、ぎっくり腰で動けないんだから、無理に動こうとしないでよ。  てか動くな、私の仕事が増える」 「お、おう、すまん。  いや、でもな、愛子(あいこ)にちょっと頼みたいことが……」 「話なら後で聞くから。  今は横になって寝てなさい、てかさっさと寝ろ」  こわごわと腰を労りながらUターンする父の背中を見届けてから、次は少し前に取り出しておいた冷凍の豚肉を切った。  着々と手際よくカレーの具材を切っていき、そして今度は炒め作業へ移る。  先日掃除したばかりの換気扇が回っていることを確認して、フライパンに肉を投入して火を付けた。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加