第1話

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 其処まで裕福な暮らしが出来るほどの収入もない。  収入があったとしても、最近は母の入院費とかぎっくり腰などの治療費に消えていくことが大半だった。  だからアルバイトをして少しでも収入を増やそうと試みているのだが、あまり仕事を詰め込み過ぎると、もれなく労働基準法という法律の壁とご対面することになる。  その所為で、あまり稼ぎまくるぜ☆ということも出来なかった。 「……ん、意外とうまく出来たな」  別段料理が下手という訳でもないし、ましてやカレーなので失敗することもないが、今回は残りものの食材にしてはよく出来た方だった。  思わず自画自賛しながら、器によそってさっさとリビングへと運んだ。  こたつにもなる卓袱台の周辺に色々と物を広げる父を軽く足で突き、片付けろと無言で催促する。  そうしなければ、このカレーを食べる場所もないし置くスペースすらない。  がさつに書類やら用途のよく分からない小物等を掻き集めたかと思うと、少し離れたところに放り投げた。  そんなぞんざいな扱い方をしていたら、後で後悔するだろうに。  そんな大雑把な父を横目に、ようやく食事をする余裕の出来た卓袱台の上にカレーをよそった器を置く。  父は子供のように表情を明るくすると、勢いよく手を合わせた。  それに倣って、私も静かに手を合わせる。
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