第1話

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「「いただきます」」  言い終わったと思ったら、横でカレーにがっつく中年男性。  なんだろう、この図は。  実の父に対し少々失礼なことを考えながら、ふと先ほどの話を思い出したので、一応聞いておくことにした。 「ねぇ、父さん。  そう言えば、さっき何言おうとしてたの?」 「あ、あぁ、そうだった。  ちょうどここの真上だったか。  二○一号室の斉藤(さいとう)さんに、今回もまた家賃滞納してますよ、って声をかけに行って欲しいんだ」 「え、つまり、家賃の取り立てに行けと?」  私の頭にふと浮かんできたのは、アロハシャツやスカジャンを着てグラサンをかけた、パンチパーマとかオールバック姿の、まるでヤーさんのような柄の悪いおっさん。  いやいやそれは闇金とかの取り立てだろうが、と自分にツッコミながら腕組みをした。 「てか、またってことは、その斉藤さん、前にも滞納したことあるの?」 「色々と金銭的に生活も厳しいらしくて、しょっちゅう納金が遅れる人でね。  多少の遅れは全然構わないとは言っているけど、念の為にそろそろそんな時期ですよー、っていう声かけはしてあげているんだ。  必死に仕事していたらつい払い忘れて、気付いたら家賃滞納してました、なんてなったら可哀想だろう?」  なるほど、と小さく呟きながら、カレーを口へと運ぶ。
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