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「仮谷(かりや)さんの父親、大家やってるんだって?」
今年になってしばらく経った頃、確かあれは、バレンタインだとかで周りが浮ついていたような時期だっただろうか。
放課後にアルバイトの求人広告を眺めていた私に、ほとんど話したことのないクラスメイトの斉藤亘(わたる)が話しかけてきたのだ。
記憶が正しければ、これが初めての会話だったかもしれない。
それ故に少々驚いていると、彼は小さく咳をした。
「あ、うん。斉藤くん、風邪?」
「あぁ、いや、たいしたことないよ。
少し気疲れが溜まってるだけだし、風邪なんて大層なものじゃないから」
「適度な休息を取らないと、どんな馬鹿でも風邪引くから気を付けた方がいいよ。
あ、斉藤君は馬鹿じゃないから駄目だね、風邪引きやすいでしょ」
「……それ、嫌味か」
ほぼ初会話だというのに、随分ずけずけと物を言う女だ、と思われていたかもしれない。
それでもお構いなしに笑みを返す私に、彼は何処か清々しそうに口角を上げた。
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