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「いらっしゃい」
声をかけられて、はっと我に返った。同じくらいの歳の同性に見とれてどうする。
「あの、時旅? ってなんですか……?」
「あなたは大切なことを忘れています。大切な……約束や、思い出。それを思い出していただくために行うのが“時旅”です」
「大切なこと? それなら普通覚えてるんじゃ……」
「人とは不完全な存在です。大切なことでも時に忘れてしまう……」
そう言って、私の目の前に立った。
「思い出すのか、思い出さないのか、決めるのはお客様次第です。大切といっても種類は様々。中には思い出したくないものであることもございます。そのようなリスクも十分考え、“時旅”を行うと決められました際はまた後日お越しください」
「今じゃだめなんですか?」
「心は繊細です。忘れていることを思い出すというのはとても危険なこと……ですので、必ず数日後お越しいただくようにしております」
そう言われては少し怖くなってしまう。
店を出て、こんこんと“時旅”のことを考えながら帰路についた。
ーーその日の夜、この地方では珍しい大雪となった。
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