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その時だった。
「ちょっとちょっと! 早くしてくれますかねぇ!? 急いでるって言われてんでしょーが!!」
事もあろうに、それを繋ぎ止めたのは被害者でえるレイ本人だった。
否、もっと言うならば期待はあったのかも知れない。だがまさか本当に“そう”なるなんて事は思ってもいなかったのだ。
喜びや拒絶よりも戸惑いがルディアナの内を支配し、ルディアナは振り返ったその位置に縫い止められたかのようにただの一歩も動けない。
「え…………?わ、私は――――――――」
「あーもーモタモタしない! 荷物とかなんて後でも出来るからさっさと来る! ホラ!!」
威厳も何もあったものではない狼狽を見せるルディアナに駆け寄ると、レイはその手を取って強引にスキマへと引き込んだ。
ことごとく、敵わない。
魔力や頭脳などというモノではなく、もっと根本的な部分でレイはルディアナの居た場所を乗り越え、とうに置き去りにしていた。
「――――――――――――――ええ……。」
本当にこれで良かったのか、それは彼女には分からない。
ただ、受け入れられた。ようやく孤独の枷から解き放たれたルディアナは、永い永い間求め続けた、たったそれだけのことに満たされ、柔らかく頬を綻ばせた。
まだ贖罪となることは一つとして果たしてはいないが、それでもルディアナはやっと背けていた日の光に向かう事ができたのだ。
「やーれやれぇ。やーっと大団円って感じ? 世話の焼ける母を持つと辛いぜ♪
ってゆーかみんなしてボクの事はほったらかしかよぉ。」
スキマの中へと消えていった二人を見送ると、イザヴェラも苦笑しながらその後に続く。
そうして、過去の確執や因縁。全ての呪縛が解かれた館に開いたスキマはそっとその口を閉じ、溶けるように消えていった。
「………………………………………あの、私は?」
忘れ去られた憐れな男を一人残して。
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