第1話

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まわった店を思い返せば思い返しただけ頭の中のリストはだらだら伸びていく。 どの店も店名を掲げているわけではないので、なんとか屋ってのは僕が便宜的につけたものだ。 選べる品物は一点だけ。 品物を選ぶ前に店から絞り込もうとした試みはどうやら失敗のようだ。 そうこうするうちにかざぐるま屋に並んだ色とりどりのかざぐるまがカラカラと回り始め、「おばけだぞー」や「オイコラ」などとそれぞれが思い思いの脅かし文句を叫び始める。 風がでてきたようだ。 『二時ごろにはもう店じまいするところもありますヨ。市ジタイもせいぜい三時ぐらいまでだから急いでくださいネ』 案内人ジャックのアナウンスが響く。 僕はわかってるよとだけ応じて、今度は足早に人っ子一人いない市の散策を再開する。 【よろずびっくり屋】 いよいよ立ち止まったのはそう名付けたくなるような店だった。 店を選ぶことさえ難しいから、とりあえずなんでもありそうなその店をと思ったのだ。 「いらっしゃい」 店主らしきハンチングを被った恰幅の良い老人が言う。 愛想が良いな、と僕は思った。 他店の主たちは皆、黙ってタバコを吹かしているか、雑誌を読み耽っているか隣の店主と雑談に興じているかで、僕が売り物を物色していてもせいぜいが一瞥をくれるだけで誰も話しかけてこなかったのだ。 突然のことで「どうも」という、あまり愛想が良いとは言えない応え方をしてしまったのだが、店主は気に止めた風もなく言葉を続ける。 「どんな種類のびっくりをお探しかね?」 「ええと……」 改めて訊かれると、僕は一体どんなびっくりが欲しいのだろう? そもそもびっくりを選ぶための目的がないので、「どんな」と訊かれるのが一番困る。 僕はそこかしこに置かれている商品に目をやる。 座った時の軋みがタスケテと聞こえるチャーチチェア 時折30分後の時間を表示するデジタル時計 必ず心霊写真を写す一眼レフ 以外なオチのミステリばかりが並ぶ古本棚 悪くなさそうだ。 この店にあるもので決めてしまっていいように思う。 「どんな、は考えてないんですけど、この店で一番びっくりする物ってどれですか?」 あまり期待をしないでそう訊いてみる。 びっくりに一番も二番もないだろうことは分かっているが、こう訊けばオススメの品物を何点かは出してきてくれるかも知れないと考えたのだ。
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