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酔った彼女はふらふらと奥の部屋に通じる引き戸を開けて中に入り、僕の寝ていた布団に躓きながらベランダに通じる掃出し窓にかかったカーテンを少し開けると、ガラス窓をガラッと開けて外に出た。
いったい何をどうする気なんだ?
危なっかしい彼女の足元にハラハラとしながら付いて行く。
「わあ、お月さまが大きい―」
ベランダの手摺りに寄り掛かり、夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げてはしゃぐ彼女。
その後ろで窓に手を掛け、『このまま、いっそ閉めだしてやろうか…』と一瞬、薄情過ぎる考えが浮かんだ…が思い留まる。
流石にまずいだろ?死ぬ事は無いだろうけど、酔っ払いをベランダに閉じ込めて風邪なんか引かしたらは母親にどれだけ怒られるか…
はぁ―と溜め息を吐いて自分もベランダに出て彼女に並んだ。
夜風が物干し竿に下がったハンガーを揺らしている。
雲が流れて一度隠れた月がまた、まん丸い姿を現す。
月光に照らされたおねーさんの横顔をふと見ると、潤んだ目から零れ落ちた涙が次から次へと頬を伝って行く。
ああ、振られたって言ってたっけ。
もしここに居るのが彼女を振った恋人なら、綺麗な涙に免じてよりを戻すんじゃないだろうか。
彼女の涙に見惚れてそんな事を考えている自分に気が付き、ふるふると頭を振って変な想像を追い出す。
泣いてる女なんかに何考えてるんだ。俺が今考えなくちゃいけないのは、“この人をどうやって追い出すか”だから。
ふっと思いつく。
あっ、もしかして。
「ねえ?
おねーさん、ベランダの窓、鍵してる?」
「やだ、おねーさんじゃなくて、月子って呼んでよ―」
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