「月子」

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   気が付くとソファで寝ていたようだ。  「ニャー、ニャー」と仕切りに猫が鳴く。  そうか、猫の鳴き声で目が覚めたのか。  部屋の中が暗い。  ソファのそばに立つフロアスタンドの淡い灯りを点けて、  外はもう夜か?と窓の方を見てギクッとした。  窓際に立つ人影がボワ―ッと浮き上がって見える。  「はー、月子さんびっくりさせないで。  いつ帰って来たの、起してくれればよかったのに。」  月子さんが振り向いて僕を見ると、そのまま崩れるように座り込んだ。  「ちょっと疲れちゃった。」    「こっち、ソファに座れば。何か飲む?」    「ん、いーわ。」  「お店、この後行くの?」  「ううん、行かない。  君に話をしなくちゃと思って。」    「あー、俺もね月子さんに話したいことあるんだけど後にする。 聞くよ先に。」    「お母さんと話したんでしょ?」  「うちの母親と会った?うん、父親にあたる人の事聞いたんだ。  不倫なんかじゃないって、認知もしてくれるって。」    「そっか、それ聞けてよかった。安心した。」  「月子さん?」    スタンドの灯りは彼女の足元までしか届かず、顔は影になってしまっていてよくわからない。  あのミニドレスにトレンチコートを着たままの格好で床に膝を立てて座り窓ガラスに寄り掛かっていた。  「えーっとどこから話したらいいんだろう、あのね……色々謝ろうと思ってさ。」  「もしかして、篤史って人とよりを戻したって話?」  「ああ、それもあるね。」  本当だったんだ。  動揺する。  血の気が引くと言うけど、これ?  半日以上帰って来なかった、その間に何かあったんだ。  昨日の彼女と全然雰囲気が違う。  恋人に僕の事で責められたのか。    やっぱり僕はとるに足りない存在なのか。  そうだよ、最初からじゃれて遊んで、温もり欲しさに体を寄せ合った。  彼女が恋人とよりを戻したなら、僕は邪魔でしかない。  ソファの背もたれにポスっと体を預ける。  なんだか力が抜けていく。  「僕はなんだった?月子さんの…」  うっかり声に出していた呟きに彼女が答える。  「君はさ、綺麗な宝物だよ。」
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