「月子」

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 「何それ、意味分んない。」    猫がやって来て、匂いを嗅ぎまわって「にゃー」と鳴き、月子さんのそばでうろうろして、丸くなって自分を舐めだした。    「大事な宝物。  月子って呼んでくれたから、べつの人間になれた気がした。  まだ汚れる前の綺麗だった自分になれた気がした。」    「別の……。」    「月子ってね、  中学の時の好きだった男の子がね、  私の名前を聞き間違えて月子って呼んだんだ。」      「だから『月子』……。」    「君をその子の代わりにしてたかも知れない。  私も中学生に戻った気になってたかも知れない。  君が綺麗だって言ってくれたから。    君が優しかったから。  嬉しかったんだ。」  そういう役回りだったのか…     アルバムの中に閉じ込めた綺麗な初恋をもう一度辿る。  彼女の役に立てたんだから喜ぶべきだ。  でも…    「君にだけは綺麗なままで終わりたいなぁとか、一旦はね、そう思ったよ。  でもさ、君が私を慕ってくれるのが分かるとだんだん怖くなってきて…。  だってほんとの私はそんな風に思ってもらえるような人間じゃないんだもん。  ずっと嘘吐いてたんだ。  調理師学校なんか行ってない、一回はね行こうと思ったんだけどね、授業料にしようと思ったお金、使っちゃったから。」      うん、もしかしてそうかも、って考えてたよ。明け方まで。  「篤史ホストだから、店に来て売上貢献しろっていうんだよね。  学校行くって言った時はあいつに呼ばれてたんだ。  自分のお店ってのもね、ただの夢物語だよ。  あ、でも振られたって言ったのはほんと。  もうお金無いって言ったら、猫飼う余裕あんじゃねえか!って捨てて来いよって言われて逆らったから。  でもお給料出たらさ。  また会いに行っちゃうんだよね、ん、まあ私の性癖分かって満たしてくれるのあいつだけだし。」  性癖…あの…    『お願い―』と何度も言ってた。  『お願い―』の続きは    『ーワタシヲ コロシテ…』    だったな。  やっぱり、そういう意味だよな。  だからどんなに酷い男でも、別れられないんだ。
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