165人が本棚に入れています
本棚に追加
自分を『汚れてる』と言ってたのも、綺麗な頃の自分に戻った気になった、って言ったのも、だからなんだ。
綺麗だって言わずに汚れてててもいいだろって言えばよかったのかな?
僕は結局子供だ。
彼女の奥底の悲しみもなにも分かってないのに、傷を分け合った気になってた。
彼女が自分と一緒に泥に塗れてくれる男と別れられないのは当然だ。
「何かどうしょうもないね、話してて自分で呆れるレベル。
何が言いたかったんだっけ、そうだ、だからね、君が好きだと思った月子はいないの。嘘なの。
でもね、ひとつだけ、ちゃんと言いたかった。
君のこと、ちゃんと好きだった。」
物凄い勢いで自分が防御に回っているのを自覚してる。
彼女の『好き』は『必要』とイコールじゃない。
では僕は?いや、その質問は置いておこうよ。
「昨日、あんな言い方してごめん、ほんとはさ、精一杯の君が、私に夢中になってる君のことが、凄く愛しかった。
だから、どうせばれるんだから、もう嘘はやめようって思ったんだ。ホントの事話そうって。
だって、そうしないとばれた時、きっと君が傷つく…。」
「……そんなことない、大丈夫だよ。」
傷つく?
月子さんのほんとの姿を知って?
騙されてたから?
大きな傷を抱えているのに、夢を語り前を向こうとしてる彼女を、そんな彼女の悪口に怒りを感じた。
噂を否定して考えないようにしたけれど、 もしかしてと思い始めたら、そこから繋がる色んなことがよりリアルに月子さんと言う人を浮かび上がらせていく。
自分をバカだと責めていた夜。
あの『お願い…』
弱くて、傷つけられた心と体を引き摺って、自分を支配するものに怯えて、苦しんで、必死に生きている彼女の姿を想像するのは容易いことだ。
そもそも僕が彼女に魅かれた理由は、
『私と同じところまで落としたかった、汚したかった。』
と自分をさらけ出して見せてくれたからだ。
太陽は眩しすぎて見ていられない。
夜に浮かぶ月ならばそれができた。
同じ夜の中を生きていると思ったから、安心して魅かれたんだ。
でも、僕は彼女に甘えるだけで彼女の傷がどれだけ深いかなんて、考えもしなかった。
僕には傷つく資格さえないだろ?
最初のコメントを投稿しよう!