「月子」

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   「昨日お店終わったら、きっと君が猫と一緒に待ってるから急いで帰ろうと思ってたんだよ。  君に呆れられても、軽蔑されても自分のこと話さなきゃって。  そしたらさ帰ろうとしたら篤史が裏口で待ってて―」  心臓がキリッと痛んだけど  「うん。わかった、今まで一緒だったんでしょ?」  そう言って僕は立ち上がり彼女を見下ろす。  「確かによりが戻ってるなんて知らなかったけど、事実ならしかたないよね。  …ねえ月子さん。」  精一杯の強がりを言って彼女のそばにしゃがみ、僕を見上げる彼女の顔に手を当てる。  その顔の異変に漸く気が付いて息を呑んだ。  「ねえ!どうしたの?!あいつにやられたの?  唇切れてるし、ここは腫れてる!……ねえ!…これもあなたの望みなの?」  胸が締め付けられるように苦しい。  「ねえ!どうしてっ…クッ…ここまで…自分を痛めつけるのっ……」  月子さんに縋って、僕は嗚咽が止められなかった。  「泣かないで……篤史が嫉妬して、あの篤史が嫉妬に狂って…私、震えるほど嬉しかった。  だから、これは私の望みなの。  篤史がようやく叶えてくれたの。  でも、君に傷ついて欲しくない。  私なんかの為に、自棄になったりしないでね。  それが言いたくて。  私は幸せだから。  君にもらった時間は少女の私の宝物なの。  でも、ずっと、願ってた。  ようやく叶ったの……。」  「ねえ嫉妬って俺のこと?俺のことでこんな風にされたの?!」  頭のどこかでずっと何かがおかしいとアラームが鳴っている。  「そんな風に言わないで。ね?  君の付けた痕を見せびらかしたのは私なの。  ご機嫌で、あんた以外にも優しい恋人がいるんだから、へへんってね。  まさかあんなに怒るなんて、夢にも思わなかった。  君のこと、結果的に利用したみたいになっちゃったのはゴメン。  謝るから、だからだから。  私のこと、不幸だって思わないで、ね。」  そんなこと…納得できない。
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