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「俺、昨日、隣で彼女待ってて、会って話したんだよ。」
「……蒼馬…」
「ホントにもういないの?
一昨日、一緒に肉じゃが作ったんだよ。
あの人、ほんと最初から滅茶苦茶で、でも俺が自分は母さんにとって足手まといだって言ったら、全力でそんなことないって説得して来たんだ。
おれ…感じ良くなったらしいよ。
俺が自分で色々難しく考えていたのを笑い飛ばしてくれて、凄く楽になったんだ。
…お礼いいたかったのに、言えなかった。
月子って呼んでよって言ったの、中学生の時の好きだった男子が希子を聞き間違えて月子って呼んだからだってさ…。
俺のこと、初恋物語の再現ビデオの役者扱いだよ。
月子って呼んだのが嬉しかったんだって。
ねえ、もしタイムマシンがあったら、義理の親父ってやつが彼女を虐待する前に戻って、そいつ殺してやりたいよ。
でも、そしたら彼女、田舎から出てくることも、スナックで働くこともなくて、このアパートで隣になることも無かったのかな…そしたら俺はまだうじうじしてたのかな…
月子さん、自分のこと汚れてるって言ったんだ。
月子さんが死にたがってたって、おれまるで気が付かなかったよ。
昨日、会いに来てくれて、望みが叶ったって。騙しててゴメンだって。幸せだから、自棄にならないでだって。
ねえ。それってずるいだろ?
母さんと話ができたって言ったら安心しただって。
おれ、先輩に告られて、『好きな人がいるからって』断ったんだぜ?
ああ、やっぱり好きなのかって自覚した途端だよ。」
「蒼馬…」
あれもこれも、思いつくままに母にぶちまけた。
母親相手に泣きながら愚痴るなんて相当見っとも無い。
それでも、一人で抱えるには重すぎて、何も言わず聞いてくれる母がありがたかった。
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