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「希子ちゃん言ってたよ、前に帰りが一緒になった時に。
蒼馬の凛としたところが、どんなに出生のことで悩んでいても荒まないところが、自分には手に届かない星のように煌めいて見えたって。
蒼馬が可愛くて、甘えてくるのが嬉しくて、いつか自分の所まで引き摺り下ろしてしまうって。
そのうち引っ越すから安心してよなんて言って。
あの子はなんどかOD(オーバードーズ;過剰服薬)で病院に担ぎ込まれてるから。
――寝られませんって言っただけで、精神科とか心療内科とか、簡単に睡眠導入剤とか安定剤とか出すのよね。――
後遺症で内臓の機能も衰えてたから、今回の死因も頸部圧迫だけじゃないんだ。
私も隣人の看護師の癖に…もっと強く入院治療を勧めておくべきだったよ。
蒼馬と猫を飼い始めて、安定してるように見えたんだけど。」
長時間労働を強いられその上隣人の死に立ち会う羽目になり、母は相当憔悴しているようだった。
今頃になって母の疲労に気が付き、いつだって自分のことしか見えない自分に心底嫌気がさす。
「ゴメン、寝てないんだよね。」
母は首を振りふと僕の顔を見据える。
「ねえ、蒼馬。
希子ちゃんが死んでも会いに来て伝えたかった事、ちゃんと分ってる?」
そう言われ彼女が僕に会いに来てくれた事の意味とその重さに漸く思い至った。
『ばれた時君が傷つく』
『凄く愛しかった』
『見せびらかしたの』
『君といた時間は宝物なの』
彼女が死んでも伝えに来てくれた言葉を僕は聞き流して無かったか。
『ちゃんと好きだった』
と、言ってくれたんだ。
もし、もし彼女と話をすることなく、死んでしまったと聞いたとしたら……。
ほんの一瞬想像するだけで、真っ暗な穴の中に突き落とされたように感じる。
どれだけ僕の事を考えてくれたんだろうか。
僕はテーブルに身を投げ出し、声を上げて泣き続けた。
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